エルーヴィア語が生まれるまで#mi01

はじめに

ここでは私が言語や人工言語に興味を持ち、エルーヴィア語が作られるに至った経緯などを書いていきます。
色々な思い出やエルーヴィア語を設計する上での思想を思うままに書き綴ろうと思います。

言語に興味を持つまで

私は元々言語に対して「これって何でこういう仕組みなんだろう?」とか、「『勿体ない』は言えて『勿体ある』とは言えないのは何故だろう?」といった疑問を持つことが多い子供でした。

そんな私が成長して中学生になった頃、兄に勧められて「アークナイツ」というゲームをプレイするようになりました。アークナイツは中国のゲーム会社が開発するスマホゲームで、中国本土でリリースされる「大陸版」と日本や欧米などでリリースされる「グローバル版」でサーバーが分かれているという特徴があります。
私は日本在住なのでグローバル版をプレイしていたのですが、このゲームには面白い特徴がありまして……大陸版の方がグローバル版よりも半年ほど早くリリースされたので、大陸版で実装された内容は半年遅れてグローバル版にやってきます。
そのような仕組みをしていれば当然、グローバル版ユーザーにとって大陸版は「リークでも何でもないきちんとした公式の先行情報」になるので、ガチャの計画を立てたりする上で重要な情報源になります。ですが、大陸版は当然中国語でリリースされるのですから、自身で中国語を読解するか有志の翻訳を待つしかありません。
勉強は好きではありませんが、興味を持ちさえすれば何にでも触れる人間なので、「アークナイツのためなら……」と、中国語に触れるようになりました。日本語と同様に漢字を使う言語ですが、音韻や文法は日本語から非常に遠い言語なので、まるで全くの別世界を見ているようで、初めて言語の楽しさを知ったのはここでした。

ここまでは単に「語学」の範囲内ですが、明確に「言語学」に興味を持つようになったのは「QuizKnock」というYouTubeチャンネルでした。ある日同チャンネルの「オランダ語を知らない東大生をオランダに放置する」というかなり狂った内容の動画がおすすめに流れてきて、しっかりとタイトルに釣られて視聴しました。

そしてやはりと言うべきか、期待を全く裏切らない面白さでした。単純にミッションをスラスラと進め、オランダ語を習得していく様子が圧巻だというのは当然ですが、何より動画内で出てくる知識の全てが新鮮でした。
それまでの人生で語族という概念は全く意識してきませんでしたし、勉強嫌いなせいで品詞なども全くピンときていませんでした。要所要所で出てくる説明が私のような層でも理解できるようになっているので、新しい知識が頭に入ってくる感覚が非常に気持ち良かったわけです。
この時点で私は既に言語の沼に膝くらいまで浸かっていたことでしょう。

人工言語との戦い

実は、私は言語に熱中するようになる前から人工言語を作りたいと思っていました。というのも、私はよくFeryquitousさんという方の曲を聴くのですが、彼の音楽には頻繁に架空言語の歌詞が用いられるのです。
幻想的な音楽と架空の言語は非常に相性が良く、個人的に音楽を作って自分で聴くのが趣味の私は「自分の曲にも人工言語を使いたい!」と思っていました。

しかし、当時は言語知識など全く無かったので、QuizKnockとの出会いを皮切りに言語知識を大量につけて行った私は、今度こそ自分の手で架空の言語を作ろうと決意しました。
……とは言っても、人工言語の経験が無いことに変わりはないので、最初はChatGPTやGeminiといったAIに「架空の言語を作らせる」という遊びをして、AIの言語能力を確かめてから補助ツールとして使おうとしました。

そんな経緯で生まれたのが今のエルーヴィア語の祖とも言える「ノクタル語」です。「月信仰の民族の言語」という構想がずっと頭の中にあったので、それをAIに投げて原型を作ってもらったのですが、その原型をこねくり回して人工言語を作る感覚が少し身に付いた頃、「異常なほどクオリティが低いな……」と思うようになりました。
内容を挙げ出すとキリがないですが、例えば「独自の世界観を持つ人工言語の割に借用語がある」だとか、「屈折語を作るつもりだったのに分析的になってしまっている」などなど、全く自分の中で満足がいく形ではなかったので、完全に白紙に戻して1から言語を作ることにしましした。

試行錯誤

今のエルーヴィア語が出来るまで、エルーヴィア語は一度死を経験しています。ノクタル語もカウントしたら二度です。
ノクタル語の反省を活かして、借用語を減らしつつより総合的な言語にする方向で「エクテメ語」を作り始めました(後にエルーヴィア語に改名)。この時点で設計はそこそこ今のエルーヴィア語とも近かったのですが、単純に代名詞の響きが気に入らなかったり、活用グループのそれぞれの語尾が多様すぎて統一感が無かったり、独自文字の形も過度に複雑だったりと、「今の私ならもっと良くできるのでは?」とノクタル語の時と同じようなことを考えました。

そしてエクテメ語もまたすぐに死にました。借用語は間違いなく減って理想形に近づいたのは確かですが、せっかく借用語を減らしたのに構造がことごとくラテン語に似ていました。私はラテン語が最も好きな自然言語で、ラテン語のような言語を作るつもりで作りましたが、にしても形態素をそのまま持ってきてしまったりもしたので、「語単位では借用していない」が「文を見るとラテン語っぽい」という、中々おかしな状態になりました。

三度目の正直、音韻や文法をエルーヴィア語独自のものとして設定し、単語や形態素を生成するというアプローチで作り始めたのが今のエルーヴィア語です。
ラテン語の良さの一つとして、名詞の格変化グループがあるおかげである程度単語の格変化を予測しやすいというものがあります。例えば、「"-us"で終わる単語は概ね男性名詞」とか、「"-a"で終わる単語は女性名詞か、複数形の中性名詞」みたいな具合です。
ここの語尾を独特にしてしまえば自ずと音韻的特徴が既存言語と被らずに独自性のある体系が広がっていくのでは?と考えました。その当時、私は音声学に大ハマりして自然言語の音韻変化や、何故それら音韻変化が起こるのかという知識が感覚としても理論としても頭に入っていました。なので独特な音韻を作りやすかったのです。具体的に見ていきましょう。

エルーヴィア語の設計思想

音韻

まず考えたのが、「珍しい子音を論理的に違和感なく取り入れる」ことでした。

その考えから最初に採用した子音は無声硬口蓋摩擦音 [ç]です。これは現代日本語の「ひ」やドイツ語の「ch / g」などで見られるので特別珍しいと言うほどでもないのですが、音節の末尾ともなるとパッと思いつくのは大抵の人はドイツ語くらいなものでしょう。
しかし、「単に音素として取り入れるのは違うな」という印象でした。自分の代表作とする言語と考えて、「ヒャ」や「ヒョ」というように、語頭にこの子音が現れるのがしっくりきませんでした(感覚の話すぎますね)。なので、「音節末にしか現れないようにしよう」と考え、特定の子音の位置異音とする方針にしました。
音声学的に考えて、位置異音としてこの子音が現れやすいのは声門摩擦音や軟口蓋音などですが、エルーヴィア語では硬口蓋接近音 [j]が音節末に現れた時の異音とすることに決めました。多くの人が英語に慣れているので、単語の最後に"y"が見えると大体[i]だと思うはずです。それを逆手に取ったのと、音節末の有声音は多くの言語で弱化しやすいので、/j/が[ç]になるというのは中々理にかなっているはずです。実際かなりしっくりきました。
そしてこの独特さを前面に出すために、第一格変化という目にしやすい名詞の単数主格形語尾として"-ey"という形で取り入れました。現行のエルーヴィア語でまさに目にするものです。

こんな調子で、円唇前舌狭母音 [y]を音素として取り入れつつ独自性を出すために、「/ju/を"iu"と綴ったことの名残」という設定を付けて"iu"で綴るようにしたり、無声後部歯茎摩擦音 [ʃ]をできるだけ気持ち悪い綴りにしようと考えて"scy"と綴るようにしたりしました。

単語面

QuizKnockの動画で、趣味で人工言語を作っているZiphilさんが「自分が物事をどう見ているか」によって、日本語や英語などでは一つの単語としてまとめられる物事を異なる名詞で区別するということをしていると語りました。私もそのように自分の考えを持っていたので、自分の思想を単語に反映しています。

例えば、"jenaute"という単語は一単語で他の単語では表せないような細かい意味があって、見出しとしては「飲食物が無駄になった時の痛惜」と書かれる名詞です。
皆さんは飲食物を落としたりした時、きっと「勿体ない」と思うことでしょう。その勿体ないは多くの場合「自分が食べたかったものが失われてしまった……」というようなある種利己的な感情だったりします。ですが私はどちらかというと「せっかく多くの人がこの飲食物の製造に関与し、素材や金銭の大きな流れがあったのに、それらが全て無に帰してしまった……」という罪悪感がベースです。そのことから、この単語の語義は「飲食物が失われ無駄になったとき、その飲食物の製造に関与した人々の労力や営みが無意味になったように感じる悲しみや罪悪感。」と記されています。
単に「勿体ない」という風に訳すこともできますが、あくまで"jenaute"は数ある「勿体ない」の意味の中の一つを分けて出来たようなものです。
その他にも、ギリシア語からインスピレーションを受けて「愛」に相当する単語を細かく定義したり、複合語や派生語を作る時に「自分ならこの単語はこう捉える!」と考えて連想ゲーム的に派生語を作ったり、節々に私の考えが反映されています。

「副格」

エルーヴィア語の名詞は格変化を持ちます。全部で六つの格がある中、一つだけ存在しない格を作りました。それが「副格」です。
典型的には、日本語なら「~を通って」や、英語なら「through」などと訳すように設定しましたが、ざっくりとこの格の本質を説明するとその名詞が中継地点であることです。単に通り道として副格を用いるのも良いですし、大変な挑戦を達成する道のりを副格で表現しても良いですし、時間を表しても良いですし、さらにはラテン語の絶対的奪格のように述語として使うこともできます。
副格を設計した最初のきっかけは極めて単純で、ラテン語の"Per ardua ad astra"という成句に影響されたことです。"Per ardua"の部分が「困難を経て」のような意味なのですが、これを一つの格で表せたら中々洒落ているのでは?と思ったのが始まりです。ですが、それだけでは登場頻度があまり高くないでしょうから、先述した用途を徐々に追加していって見た目以上に便利な格へと発展しました。

エルーヴィア語、爆誕!

そうした二度の死や度重なる試行錯誤の末、エルーヴィア語が今の形に落ち着きました。
まだまだラテン語っぽさは残りますが、独自性は上がりましたし、ノクタル語やエクテメ語たちと違って白紙に戻さずともある程度大きな変更を加えやすい体系になっているので、自分の裁量でいくらでも手を加えられます。
Yusrieはエルーヴィア語のデータベースなので、学んでいる途中で大きく変わると「せっかく覚えたのに!」となってしまいそうですが、無理せず学習していってください!